東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)81号 判決
1 請求の原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
(一) 前示のとおり、本願商標の構成を表示することについて当事者間に争いのない別紙の記載によると、本願商標は、円輪郭内の中央部に図形部分を配置し、その下部に「SHINANO」とローマ字を横書きしてなるものであることが認められるが、該図形部分は二本の太い線を平行にして曲線状及び直線状に表したものであつて、その外観からは特定の文字、図形若しくは記号等を表現したものと認めることはできない。
原告は、右図形部分をもつて、「S」の字を図案化し中央に白抜き線を配して二個に分割して配した構成である旨主張するが、右図形部分が右主張のような構成であるとするのは原告独自の見解に基づくものというべく、到底肯認することができない。
なお、成立に争いのない甲第一三号証は、これに表された図形は本願商標における前記図形部分とその構成を異にするので、同号証をもつて原告の右主張を肯認する根拠とすることはできない。
したがつて、本願商標は、その構成中、図形部分からは何らの称呼、観念も生じないものであり、称呼を生じるのは、該図形の下部に表示された「SHINANO」の文字部分のみであり、それ自体が独立して看者の注意を引くとともに、自他商品の識別標識としての機能を果たすものと認めることができ、本願商標は、「SHINANO」の文字部分から「シナノ」の称呼を生じるものというべきである。
原告は、商標の内容は外観に限局されているものであつて、商標の称呼、観念は外観に限局され、外観についての称呼、観念であるから、外観、称呼及び観念を各別の立脚点において論断することは誤りであり、本願商標から生じる称呼は、「マルニズアンエスノジ、ローマジシナノ」ないしこれに準ずる称呼であり、その外に、「マルエス」、「ニジユウエス」、「マルエスシナノ」、「キヨウダイエス」の如き称呼が生じるが、単に「シナノ」という称呼は生じることがない旨主張する。
しかしながら、商標は、商取引における自他商品の識別標識、出所表示標識としての機能を果たすために使用されるものであり、テレビ、ラジオその他広汎な広告媒体が存し、かつ、電話等の取引手段が活用される現代社会において、一般の取引者、需要者が商標を外観から離れてその称呼、観念に基いて理解し、商取引を行うことがありうることは、社会通念に照らし明らかなところであるから、外観において相違するところがあつても、称呼又は観念において類似する商標の使用を許容するならば(称呼又は観念が類似するにかかわらず、商品の出所の混同が生じないという特別の事情の存しない限り)、商取引に混乱をきたし、ひいては商標制度の意義を喪失させるおそれがあることは否定し難いところである。
したがつて、商標の外観、称呼及び観念を各別の立脚点において論断することは誤りであるとする原告の主張は採用することができない。そして、原告が本願商標から生じる称呼として主張する「マルニズアンエスノジ、ローマジシナノ」、「マルエス」、「ニジユウエス」、「マルエスシナノ」、「キヨウダイエス」は、いずれも本願商標における円輪郭内の中央部に表示された図形部分が「S」の字を図案化したものであることを前提とするものであつて、その前提において誤りであることは前述したところから明らかであり、また、商標の称呼を生じる部分が文字をもつて構成されている場合には、称呼はその文字の発音であり、社会通念に照らしても、本願商標の文字部分がローマ字の「SHINANO」から構成されているからといつて、格別の事情の存しない限り、取引者、需要者において文字部分がローマ字であることに注目して「ローマジシナノ」と称呼するようなことは考えられないところ本件において、取引者、需要者がこれを「ローマジシナノ」と称呼するであろうと認むべき格別の事情は証拠上存しないから、本願商標から「ローマジシナノ」の称呼が生じるとは認めることができない。
(二) ところで、前示のとおり、引用商標は、「しなの」の平仮名文字を縦書きしてなることは当事者間に争いがないから、引用商標からは、その文字の発音である「シナノ」の称呼が生じることは明らかである。
原告は、引用商標は、平仮名で「しなの」と表現したのみの意味を確定しえない数字表現の如き標章に限局されて商標登録されたものであり、その称呼は「ヒラガナシナノ」に帰し、単に「シナノ」の称呼が生じることはない旨主張する。
しかしながら、引用商標を構成する平仮名文字の「しなの」は、「シナノ」の発音以外にいかなる発音も生じないものであり、これを「ヒラガナシナノ」と称呼すべき格別の事情も証拠上認められないから、原告の右主張は採用することができない。
そして、引用商標は、本願商標の出願前に出願され、かつ登録された商標であることは当事者間に争いがないから、引用商標が商標法第四条第一項第一一号の商標として本願商標との類否判断の対象となることは明らかである。
(三) 以上によれば、本願商標及び引用商標は、「シナノ」という称呼を共通にするものであり、本件全証拠によるも、称呼が同一であるにもかかわらずその使用により商品の出所の混同を生じないという特別の事情も認められないから、両商標は類似商標というべきである。
したがつて、本願商標及び引用商標から「シナノ」という称呼が生じるものとした審決の認定には誤りがなく、本願商標及び引用商標は「シナノ」の称呼を共通にする点において互いに類似する商標であるとした審決の判断は正当であるから、審決には原告主張の違法はない。
3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却する。
〔編註〕本件に関する商標は左のとおりである。
別紙
本願商標
<省略>